こんにちは、管理部さん(@acts1216)です。今回は売掛金管理方法の一つ『重点管理』についての記事です。この記事は前編・後編にまたがっており、最初の方は同じ内容です。
まずはこちらをご覧ください。
中小企業庁から日本の倒産件数と状況を引用しました。こうしてみると毎月600件~700件の倒産で、900億円以上の負債の貸し倒れが発生しています。
今回はこの貸し倒れを未然に防ぐため売掛金管理(債権管理)の中の回収部分に特化した方法である重点管理の方法を紹介いたします。
後編では相手先や専門家に依頼する方法をご紹介します。後編では、他の企業や機関を通じた回収方法を紹介しています。
特に営業担当/事務担当は貸し倒れて回収が不能になった際、”見抜けなかった”という理由で人事評価が下がることがあります。売掛金回収の個別管理の知識を蓄えることによって未然に防げることも多くあります。
私は中小企業の経理をメインにおこなっているので、売掛金回収も簡易的なものから役場や相手先を通じた難易度の高い交渉までをおこなった経験があります。そこで実際の方法も含めてご紹介いたします。
売掛金管理の最終段階 重点管理の概要
売掛金管理の重点管理ってなあに?
経理事務を中心に売掛金の入金を管理しますが、この中でお客様からの入金が遅くなることがあります。遅くなるだけですぐ入金されるのであれば、問題はありません。
しかし、中には商品の購入やサービス受けたのにも関わらず、代金を支払ってもらえないお客様がいます。このようなお客様をピックアップして、アクションを起こして代金回収をすることを重点管理と呼びます。具体的には下のようなことをします。
- 支払いが遅れている/支払ってくれないお客様をピックアップする
- 支払いをしてもらえるようにこちらからアクションをかける
- ちゃんと代金の回収ができたか管理する
ピックアップ方法は前回の記事の消込処理に詳しく書いてあります。 この消込処理は、別名全体管理と呼ばれ、個別管理と全体管理の2つがそろって初めて日々の売掛管理(債権管理)がうまく回ります。
売掛金の個別管理 債権回収のアクションは全部で12種類
売掛金の回収は比較的簡易・低コスト・自社内で完結する方法と、難易度が高い・中~高コスト・ 他社を通すものがあります。アクションを一覧にまとめてみました。
難易度 | 緊急度 | コスト | 再販売 | 名称 |
---|---|---|---|---|
簡単 | 低 | – | 継続 | 電話による催促 |
簡単 | 低 | 0円~ | 継続 | 訪問による回収 |
簡単 | 低 | 320円~ | 継続 | 簡易書留、配達記録、 内容証明郵便 |
簡単 | 中 | – | 継続 | 基本契約履行 |
簡単 | 高 | – | 停止 | 契約解除 |
普通 | 低 | – | 継続 | 覚書作成(延滞利息、遅延金、支払延長) |
普通 | 高 | 500円~ | 停止 | 支払督促 |
普通 | 高 | 場合による | 継続 | 債権譲渡(ファクタリング)、相殺 |
難しい | 中 | 5000円~ | 継続 | 公正証書 |
難しい | 中 | 500円~ | 停止 | 民事調停 |
難しい | 高 | 1500円 | 停止 | 即決和解 |
難しい | 高 | 場合による | 停止 | 強制執行による回収 |
難易度→緊急度で上から順位をつけていますが、それぞれベストなタイミングはバラバラです。列の説明は以下のとおり。
- 難易度…回収の簡単さを3段階に分けています。難易度は自社内で済むかどうか、相手先と交渉する、その他の企業や機関を使うかどうかで判断します。
- 緊急度…すぐに回収しなければいけないかどうかで低中高の3段階に分けています。
- コスト…人件費や固定費を含まないそれぞれの回収方法にかかる金額です。おおよその目安は自社内<取引先を巻き込む<他の会社に依頼<弁護士を利用する となります。
- 再販売…今後も取引を継続できる可能性があるかを継続・停止の2択で分けています。
- 名称 …売掛金の個別管理アクションの名称です。
それでは自社内でできるものから見ていきます。
思ったより回収アクションって多いんだカモ
売掛金 個別管理の5つの基本的な回収アクション
売掛金管理 ライトな契約 覚書の契約
相手が交渉に応じるのであれば覚書の作成&契約も簡単な方法になります。相手先と支払いに関して取引基本契約書で賄えないところを覚書で作成し、契約をします。相手と深い付き合いがあり今後も継続したいがお金も支払ってほしいという特別な事情、そもそも基本契約書がないという場合であれば有効です。下のような内容を入れておくと良いです。
- 支払期限(一括なのか、分割か)
- 利息や延滞金の有無
- 売掛金のどの部分か(現在まだ売掛金が発生している場合)
- 通常のサイクルの売掛金の取り扱い
- 今後、遅延した時の条件
注意してほしいは通常のサイクルとの切り分けです。今後も取引を継続するなら、遅延している分だけ切り取って毎月数万の支払いをしてもらいつつ、通常のサイクルは通常のサイクルで支払いをしてもらうように記載します。
また、覚書を取り交わした以降の遅延した場合の定め(連帯保証人をつけたり、資産を抑えたり)もつけなければ効果が薄いです。
覚書は名前こそライトな感じですが、立派な契約書の一つです。本当に取り交わす場合、弁護士など専門家にコンプライアンスチェックを受けると良いです。
- やろうと思えば、相手と自社だけで完結できる
- 基本契約書に書かれていないところを記載する
- 今後も取引を継続予定の会社が良い
譲歩案のひとつとして有効なのカモね
裁判所からの執行が可能! 支払督促
裁判所から債務者へ支払の命令を出してもらう方法です。比較的簡易的に作成でき、コストも安く、早ければ一ヶ月程度で解決できます。相手先が非を認めて交渉の余地がある場合に有効な方法です。というのも支払督促は、
「支払ってないとこちら側(自社)から請求ありましたが、本当ですか?本当なら払ってね」
ということを裁判所から相手先に郵送します。2週間以内に相手が異議申し立てをしなければ、そのまま支払いの流れになりますが、相手が異議申し立てをした場合、民事訴訟に発展します。
民事訴訟に発展した場合、さすがに自社内では賄えないので、弁護士を通じて争うことになります。
この支払督促の魅力は何といっても執行できるのに費用が安いこと。10万円だと、支払督促の手数料500円+登記簿謄本(オンラインで送付なら500円)で1,000円で可能となります。
詳しい費用や方法については裁判所の支払督促のページ( http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_minzi/minzi_04_02_14/index.html )に行くと詳しくわかります。
- 相手が支払いを認めているが、なかなか支払いに応じてもらえない時に有効
- 上記、覚書の遅延した時の条件等に加えると効果が高い
- 民事訴訟に発展するリスクを考慮する
他の会社に投げる売掛金の回収 ファクタリング 相殺
売掛金を他の会社に買い取ってもらう、双方の会社の売掛金/買掛金を相殺してもらう方法です。他の会社に買い取ってもらう方法はファクタリングと呼ばれます。
相殺は、相手先が持っている自社の売掛金と自社が支払わなければいけない買掛金のを差引する方法です。お互いに取引となる場合有効ですが、この例はほとんどありません。理由としては、お互いに売掛金を保有しているのであればほとんどの場合、問題のない取引をしているからです。
そこで第3者を通じた相殺方法もあります。以下、自社、A社、B社の三つ巴の相殺です。
自社とA社、B社が関連業界であれば比較的ありえる方法です。それぞれがそれぞれの売掛金を保有しているので相殺します。ただ、遅延先が販売先の情報を教えてくれるかどうかは難しいところです。ここでお客様取引登録票などが活躍できることもあります。
ファクタリングという方法
売掛金を買ってくれる会社に効いて回収してもらう方法です。売掛金額の回収難易度に応じて買取してくれる方法の会社や、実際回収してからその幾分かの手数料をもらう会社もあります。例えば下記のような会社がそうです。
地域で活動しているファクタリングの会社もあります。下記は九州、中国、関西エリアの会社です。
すべての売掛金が自社の現金として戻っては来ませんが、第三者から回収してもらうことにより即現金化などのメリットがあります。
また、相手が交渉などに応じない場合など自社で手間がかかりそうな場合などは第三者が回収に努めてくれるので債権回収者の人件費の削減にもなります。
- 相殺は契約書に書かれてあれば有効な方法
- ファクタリングはすべて売掛金を現金にはできないがある程度の現金化が見込める方法
- ファクタリングは会社により即現金化できるなどのメリットもある
ファクタリングの会社は使いどころによって強力になるカモ!
第三者機関で約束をする 公証役場
公証役場という期間を通じて公証人が中立/公正な立場で契約を取り仕切る方法です。相続などでお世話になっている方も多いですが、売掛金の回収の際にも利用できます。
公証人という公的機関の方が「公証人法」「民法」などに従って売掛金の遅延を支払ってくれる契約書(正式には準消費貸借契約公正証書と呼ばれています )を作成&契約の立ち合いをしてくれます。
ここのメリットは支払いが滞った時、すぐに強制執行ができることです(通常は裁判所を通した手続きが必要)。
平たく言えば最初の「覚書」をもっと厳格にしたようなものなので相手が非を認めている場合に効果を発揮します。交渉にすら応じない場合は難しいです。
- 公的機関を通じた契約書
- 約束を守らない場合はすぐに強制執行に移れる
- 相手先が非を認めていない場合/交渉に応じない場合手段としては使いにくい
債権の円満な解決 民事調停
裁判所で話し合いによる解決をする方法です。ファクタリングとは違い、直接的に回収などはできませんが、話し合いで解決するのでお互いに納得できることが多いです。
民事調停は、民事事件の解決方法の一つ。裁判所が当事者同士の間に入って話し合うため当事者のみの解決より公正な解決が望めます。
2、3回、話し合いの場が設けられ、概ね3か月以内に70%程度の案件が終了しています。
政府広報オンラインより引用(https://www.gov-online.go.jp/pr/media/radio/w_japan/text/20190112.html
手数料は、支払督促と同じで比較的費用を安く抑えることができます。ただし、支払督促とは違い拘束時間があるので人件費との天秤にかけることとなります。
- お互いに円満な解決を望むのであれば有効な制度
- 裁判所が介入しているので安心できる
- 手数料も支払督促と同様に安価
当事者の解決ができるなら 即決和解
当事者間の和解ができるのであれば、民事調停のように裁判所に何回も行かなくてもよい方法がこちらです。
即決和解は正式には”訴え提起前の和解”と呼ばれます。民事調停や公正証書と似たような方法ですが以下のような違いがあります。
- 最短1か月程度で完了(民事調停は3カ月程度)
- 裁判所に行く回数が少ない(民事調停は話し合いの都度)
- 金銭以外も可能(建物の譲渡など。公正証書は金銭のみ)
- 費用が2000円と安価(弁護士費用などは別途ですが裁判所関係の費用は安い)
といった違いがあります。欠点としては、相手先が直前に破棄するなどに対応できないことがあります。
- 費用が安価で時間も短い
- 相手と話し合いですでに解決していることが前提
本当の最終手段 強制執行による回収
勝訴した場合や和解後相手先が支払いをしてくれない時の最終手段として強制執行があります。和解の決議事項や、勝訴で取り立てる内容にもよりますが、不動産や銀行口座の差し押さえが可能です。
但し、費用は他のものと比べ物にならないくらい高く、強制執行前(公証役場費用や民事調停など)の費用と合わせて考えると、安くても数万となります。しかも、弁護士の費用も併せると回収額より費用が上回ってしまうこともザラにあります。
但し、相手先の不動産/動産の差し押さえや銀行口座の差し押さえをするため回収力は随一です。
- 勝訴や民事調停の相手先の反故がないと手続きができない
- 回収力は随一の方法
- 費用が売掛金回収を上回ることもあるので気を付けること
売掛金管理 個別管理で未回収を防ぐ まとめ
いかがでしたか。今回は、未回収を防ぐため重点管理のアクションを中心に書きました。後編では裁判所や機関、相手先ありきの内容ですので債権回収の方の手間も金銭も増えます。
しかし、回収先によってはやらざるを得ない状況もあるので”こういう方法もある”という知識をつけておくだけで選択肢の幅が広がります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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